今日は新日本企画というところが企画した、イヤホンガイドの高木秀樹氏による講座と『曽根崎心中』鑑賞がセットになっている"第3回文楽講座&鑑賞"に参加。
この手の企画は人気が高いらしい。150名の問い合わせがあった中、今回は60名が参加。次回第4回は歌舞伎講座&鑑賞だが、すでに100名以上の参加希望者が集まっているという。
講座は主に以下の4つセクションからなる:
① 高木秀樹氏による文楽の歴史解説
② ビデオを見ながら文楽の舞台裏の説明
③ 国立劇場の衣装方主任中原氏による衣装の解説
④ Q&A
① 高木秀樹氏による文楽の歴史解説
(解説中の高木氏)
"文楽"というのはもともと淡路島出身の興行師、上村文楽軒(漢字の正誤不明)が幕末に興した人形浄瑠璃の「文楽座」からきた呼び名で、正式には江戸時代人形浄瑠璃と呼ぶしかないらしい。もともとは、竹本座や豊竹座も人形浄瑠璃の興行をしていたが、これらがつぶれて最後に文楽座しか残らなかったため、"文楽"と呼ばれるようになったとのこと。
ちなみに近松門左衛門は竹本座初期の座付きの本書きで、もともとは武士の出。母方は医者で、4人兄弟のうち兄は武士となり織田家に奉公したが早世。下の弟3人のうち2人も早世したが1人は医者となり岡本の名を名乗った。
"文楽"は時代物と世話物に分けられ、当初は時代物といわれる公家や武士の物語だけだったが、当時の現代劇として世話物が登場。その第1作目が「曽根崎心中」だった。
「曽根崎心中」の大ヒットの後、心中物が次々と書かれたがこれに影響を受けてか心中も増えた。享保年間、徳川吉宗が将軍だった時代、近松が亡くなる1年前に"心中物禁止令"が発布されてタイトルに"心中"がついているものは禁止されるようになった。これは"心"と"中"という字を逆にすると"忠"の字になるという半ば言いがかりのような理由によるもので、以降、心中は"相対死"と呼ぶように命じられる。
ところで現在上演されている「曽根崎心中」は昭和30年代に復活上演された際にオリジナルを書き換えたものだ。オリジナルと現在上演されているものの前引き(引だし)と呼ばれる義太夫による語りが始まる前の三味線によるイントロを聞かせてもらったが、オリジナルのシンプルな節と現在のものはかなり趣が異なる。
今日鑑賞する『曽根崎心中』は吉田玉男と吉田蓑助という人間国宝コンビが主遣い(おもづかい-頭と右手を担当)をするのだが、吉田玉男氏はすでに1800回ぐらい、40数年もの間『曽根崎心中』を上演されている。高木氏曰く、吉田蓑助氏がお初役をやりながら"殺して、殺して"という心中の場面で涙を流している場面を目撃したことがあるというぐらい、人形遣いは一見、能面のように表情は出されないのだがその役に入り込んでいるようだ。
② ビデオを見ながら文楽の舞台裏の説明
ビデオを見てはじめて知ったのだが文楽の人形の頭は毎回その役に応じて化粧を塗りなおし、床山さんに髪を結ってもらうものらしい。人形の頭に使う髪は人間のものだそうだ。
(ビデオで裏側を説明)
③ 国立劇場の衣装方主任中原氏による衣装の解説
今日は国立劇場の衣装方主任、中原啓太氏(漢字の正誤不明)が『義経千本桜』の忠信と静御前の衣装を元に、衣装方の仕事について説明された。衣装方の仕事というのは、通常、製作の方から3~4ヶ月前に演目・配役が知らされ、衣装を調えて人形に着付けを施すまでとのこと。衣装附帳をつけて補修・補正の必要な箇所を管理している。役に応じて、衣装がないものについては白生地から染めて刺繍、縫製を行うという。つまり、サイズこそ違えど、人間の着るものと変わりはないのだ。当然、着物ということで正絹も使うし江戸時代の町民の着物の場合は先染めの木綿を使う。
衣装の中で特にこだわりがあるのは棒襟という。綿の太さなど人形遣いによってこだわりがあり駄目だしがでたりするそうだ。立て役の棒襟は分厚い綿が入っており、女形はの棒襟の綿は薄い。人形の着付けでは襟付けがその役柄を示す重要な部分で、藤色の襟は結婚していても若い女性、町人の男性は黒襟、町人のおばあさんはねずみ色だが武家など身分の高いおばあさんの襟は銀襟。武士はもえぎ色・・・などまさに役に応じて多種多様のようだ。
(棒襟について説明する中原氏 / 衣装箱)
衣装方にとっては今、入手するのが難しい素材を日本各地で探し求めるのが一苦労。黒繻子の帯や先染めの木綿の縞織物など現在入手困難な素材を求めて京都の北野天満宮の古着市などに行ったりするという。どうしてもないものは作るしかない。ただし先染めと後染め生地では風合いが違うため、人形遣いからクレームが出ることもあるらしい。
人間と同じと言っても、歌舞伎や舞踊と人形の衣装の差は背穴(人形の頭を入れるところ)と両袖の脇があいているところ(人形遣いが手を通す)。女形の人形は足がないため、着物の腰帯のあたりから足元にかけて次第に綿を入れる量を増やしている。これは、昔は足遣いがひざ座布団というものを手に人形を遣っていたが今ではそれがなくなった代わりに綿の厚さを調製することで人形が座った姿勢をした時に足のひざが出たように見えるための工夫だ。
ちなみに文楽の場合、衣装の生地や内掛けなどについて新品がよいというわけではない。人形遣いにとっては新品は生地がごわついて使いにくく、特に女形の人形の場合は刺繍が折れ曲がってやわらかいしぐさが出てこないからだ。かなりくたびれて補修が必要なぐらい使い込んだ衣装が人形遣いにとっては使い勝手がよく、逆に衣装方にとっては手入れが大変という。
(静御前の衣装・・・美しい / 人形遣いの手が入る部分は汚れている)
④ Q&A
高木氏は歌舞伎も文楽もイヤホンガイドをしているが、ガイドをする際にどのような点に留意しているのか?など思い切って質問してみた。歌舞伎の場合は役者がかなり前面に出る、つまり役者が中心だが文楽の場合は"聴く芸能"。人形遣いをないがしろにしている、というわけではないものの、義太夫節が全て語っていくので、生音を聞いて欲しい場合はその前に説明を済ませてしまい、義太夫の台詞にガイドが重ならないように留意しているという。
他にも世界遺産になったことや出遣い(一番初めの幕)時に主遣いも黒子を着ることなど質問があがっていた。高木氏曰く、文楽は赤字になってしまうので皆さんに沢山観劇していただくことが大切、とのこと。でも文楽はチケットが取り難い。今はあぜくら会会員である夫にチケット取りをまかせているので大丈夫だが、すぐに売切れてしまう。ただしチケット代が安いのに舞台に出ている人の数は多い(重要な役の場合、3人の人形遣いがいる)。つまり、儲からないシステムになっているという。
出遣いについては、昭和41年以降、はじめだけ主遣いも含めて皆、黒物を着るようになったが、決まりごとではないとのこと。
<記念撮影>
ミーハーな私は衣装方の中原氏、イヤホンガイドの高木氏と記念撮影:-)
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観劇『曽根崎心中』
今日の敗因は双眼鏡を忘れたこと。人形の細かな表情が見えない:-p人間国宝揃いのプラチナチケット、とのことでよかったのだが文楽観劇経験が少ない私達には恐らくその本当のよさはまだわかっていない・・・。
Posted by noriko at February 14, 2004 09:55 PM | トラックバックのりこさん、はじめまして。
コメントとトラックバックありがとうございました。私も、15列で舞台に向かって右側で見ておりました。私は、子供のころから目がいいので観劇には好都合なんです。歌舞伎座の4階でも全然大丈夫ですから。
私も、あぜくら会でチケットをとったのですが発売日にスキーに行っていたため結構苦労した上に出遅れてしまいましたが、とれてラッキーでした。
高木さんというのはNHKの伝統芸術教室で解説をされていた方のようですね、なんとなく顔に見覚えがあります。のりこさんの詳細な解説を参考にさせていただきます。写真拝見しました。では失礼。
Posted by: ふう at February 15, 2004 04:50 PMふうさん、はじめまして。
同じ列にいらっしゃった人がblogをやってるなんて不思議ですね(^^)
高木秀樹さんはおっしゃるとおり、NHKの講座で解説をされていたイヤホンガイドの人です。歌舞伎も解説されていますが、どちらかというと文楽の方が専門、という印象があります。
この手の講座を受講するのははじめてだったので写真を撮り、メモを取り・・・で結構勉強になりましたし、楽しかったです。
Posted by: のりこ at February 15, 2004 08:40 PMのりこさん 久しぶりにこのページに出合いお写真を拝見しました。13日に仕事で上京した時に、歌舞伎座の「三人吉三」を是非みたかったのですがあいにくチケットは売り切れでした。そこで国立小劇場へTEL。 残り後2枚というので、急ぎ駆けつけて文楽公演「仮名手本忠臣蔵」のチケットを入手しました。文楽は2回目ですが、この度はイヤホンガイドのお陰でたっぷりと楽しめました。人形浄瑠璃の人情話にこれほど涙を誘われるものとは! おもわず太夫さんの詠い(と言うのでしょうか?)に引き込まれていきました。 人形遣いの無表情に対して人形の表情の豊かさがより際立っているようにも感じられました。 さらにガイドの方の美しい日本語がテンポ良くタイミング良く 大変心地よく耳に届きました。 のりこさんの”セミナー”参加のお話でまた更に深いものを感じることが出来ました。 いつも一人で行動していますが、終わった時は「面白かったねえ!」と隣の人に言いそうになっていました。 帰り道でカフェに寄り、後から来た同じ年齢とおぼしき女性2人が隣で、公演の感想を語り合っていて「面白かったねえ!」と聞こえてきたので、とても嬉しくなり感動を共有できた様で満足しました。 公演前に少し時間があったので、隣接する資料館を見学して来ました。こちらも次回ゆっくり楽しみたいと思いました。
Posted by: 秋山幾代 at February 18, 2004 10:40 AM秋山さん、お久しぶりです:-)
「仮名手本忠臣蔵」もいい出し物でしたよね。私達は今回は講座とのセットだったので、「曽根崎心中」しか観ていないのですが、「仮名手本忠臣蔵」の"雪転がしの段"ってどうでしたか?実は歌舞伎でこの段は観た事がないのです。イヤホンガイドの担当は高木秀樹さんでしたっけ?高木さんの文楽の解説は本当にわかりやすくて適切だと思います。
> いつも一人で行動していますが、終わった時は「面白かったねえ!」と隣の人に言いそうになっていました。
そうですよね(笑)うちはいつも2人で観劇してますが、他の人が同じ感想を持っていて話しているのを耳にすると思わず話しかけそうになります(笑)
のりこさんへ
「雪転がしの段」ですか?えーそのー、となんとも頼りなくて済みません。由良の介が遊郭からの朝帰りのところでしょうか? 雪が相当積もっている筈なのに、人形の足が浮いているのがチョット変な気がしました。(きっとアラが目に付いてしまうイヤな性格なのかも知れません。)もっともその他大勢の役でしたが・・・はい、イヤホンガイドの方の名前は確か高木さんだったと思います。本当に美しい日本語でした! のりこさんのお話を伺ってから観賞したらまた違った面白みがあったことでしょうね。これからも楽しみにページにアクセスしたいと思います。どうぞ宜しく・・・
秋山さん、有難うございます。歌舞伎辞典か何かで調べてみますね。確か時間も短い段だったと思うので、(上演することが)珍しいなぁと思ったんです。またお立ち寄りください:-)
Posted by: のりこ at February 21, 2004 08:35 PM




